親御さんの物忘れが増えてきて、「銀行の手続きが本人でないと進まない」「介護のお金をどう払えばいいのか」と、ふと不安になったのかもしれません。まだ何かが起きたわけではなくても、早めに知っておくと選べる道が増えることがあります。ここでは、成年後見制度と家族信託という二つの入口を、急かさずにご案内します。今日すべてを決める必要はありません。

まず、何が起きることがあるのか

判断能力が下がってきた方の預金は、金融機関がご本人を守るために、引き出しや解約などの手続きを一時的に止める(いわゆる口座の凍結)ことがあります。悪意があってのことではなく、ご本人の財産を守るための仕組みです。ただ、その結果として、介護施設の費用や医療費を家族が本人の口座から払えず、困ってしまうことがあります。

こうしたときに、ご本人に代わってお金の管理や契約を支える公的な仕組みが「成年後見制度」です。そして、元気なうちから備えておく選択肢のひとつに「家族信託」があります。それぞれ、性格が違います。

法定後見と任意後見の違い(概要)

成年後見制度は、大きく「法定後見」と「任意後見」の二つに分かれます。どちらも、ご本人の暮らしとお金を守るための制度です。

法定後見

判断能力がすでに下がってきたあとに、家庭裁判所へ申立てをして、ご本人を支える人(成年後見人など)を選んでもらう仕組みです。判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の三つの類型があります。すでに手続きに困っている場合は、こちらが入口になることが多くあります。

任意後見

ご本人にまだ十分な判断能力があるうちに、「将来、判断能力が下がったら、この人に支えてもらいたい」と、あらかじめ契約(任意後見契約)で決めておく仕組みです。契約は公正証書で結びます。まだ元気なうちだからこそ選べる備えです。

※ ご案内についてどの類型・どの仕組みが合うかは、ご本人の状態やご家族の事情によって変わります。ここでは概要の目安をお伝えしています。実際の判断は、下記の公的窓口などでご相談ください。

家族信託とは(仕組みの入口)

家族信託は、ご本人(財産を持っている方)が、信頼できる家族に、自分の財産の管理や運用を託しておく仕組みです。たとえば、親が元気なうちに「自宅や預金の管理を子に託す」と決めておくと、のちに判断能力が下がっても、託された家族がその範囲で財産を動かせるようにしておける、という考え方です。

成年後見制度が「家庭裁判所が関わる公的な制度」であるのに対し、家族信託は「家族間の契約」で設計する仕組みです。柔軟に決められる一方で、契約の内容づくりには専門的な検討が必要になります。ここでは仕組みの入口だけをお伝えし、詳しい設計は下記のような窓口や専門職への相談を目安としてご案内します。

※ ご案内についてこの記事では家族信託の仕組みの入口だけをお伝えしています。制度の細かな要件や税金の扱いは事案によって異なり、この記事では断定しません。

いつ考え始めるとよいか(タイミングの目安)

大切なのは、任意後見や家族信託は「ご本人にまだ判断能力があるうち」でないと選びにくい、という点です。判断能力が下がってしまってからは、選べる道が法定後見に絞られていくことがあります。だからこそ、「まだ元気だから大丈夫」と感じている今こそ、選択肢を知っておく意味があります。

とはいえ、焦って何かを契約する必要はありません。「こういう仕組みがあるらしい」と頭の片隅に置いておき、家族で少しずつ話してみる。それだけでも、いざというときの動きが変わります。すでに手続きに困っているなら、その時点でできる法定後見という道もありますので、遅すぎるということはありません。

手続きの流れ(法定後見の場合・目安)

法定後見を利用する場合の、おおまかな流れの目安です。詳しい書類や運用は家庭裁判所によって異なることがあります。

  • ① ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に、後見等の開始の申立てをします。
  • ② 申立てには、申立書のほか、ご本人の診断書などの書類が必要になることがあります。
  • ③ 家庭裁判所による調査・審理を経て、後見人などが選ばれます。
  • ④ 選ばれた後見人などが、ご本人に代わって財産の管理や契約を支えていきます。

申立てから後見人などが決まるまでにかかる期間は、事案によって幅がありますが、数か月ほどが一つの目安とされることがあります。急いでいる事情があるときは、申立てをする家庭裁判所に早めに相談しておくと、見通しが立ちやすくなります。具体的な書類や進め方は、下記の後見ポータルサイトでご確認ください。

後見ポータルサイト(申立ての手引き・書式など/裁判所)

費用の目安

成年後見制度を利用するときには、いくつかの費用がかかることがあります。金額は事案や地域によって変わるため、ここでは種類の目安だけをお伝えします。

  • 申立てのときにかかる費用 … 収入印紙・郵便切手などの実費のほか、必要に応じて診断書や鑑定にかかる費用がかかることがあります。
  • 後見人などへの報酬 … 家族以外の専門職が後見人になった場合などに、家庭裁判所が定める報酬が、ご本人の財産から支払われることがあります。金額は事案によって異なります。

家族信託の場合は、契約書づくりや登記などにかかる費用が、内容の複雑さによって変わります。いずれも「一律いくら」とは言い切れないため、実際の金額は相談する窓口や専門職に確かめるのが安心です。費用の負担がむずかしいときに使える公的な支援がある場合もありますので、下記の窓口で相談してみてください。

※ ご案内についてここに挙げた費用はあくまで種類の目安です。制度は見直されることがあり、金額も事案ごとに異なります。最新の内容は公的窓口でご確認ください。

相談先のご案内(公的な窓口)

ひとりで抱え込まなくて大丈夫です。まずは、次のような公的な窓口に相談してみてください。どこも、制度の説明や進め方の案内を受けられる場所です。

  • 裁判所の後見ポータルサイト … 申立ての手続きや必要な書式を確認できます。
  • 法テラス(日本司法支援センター) … 法的なトラブルや制度について、無料の情報提供や相談の案内を受けられます。
  • お住まいの地域包括支援センター … 高齢の方とご家族の総合相談窓口で、成年後見の入口についても相談できます。
  • 市区町村の担当窓口や、地域の中核機関(成年後見の相談を受け付ける機関) … お住まいの地域での相談先を案内してもらえます。

そのうえで、より具体的な手続きや家族信託の設計については、弁護士や司法書士などの専門職に相談する方法があります。この記事では、特定の専門家や事務所をおすすめすることはしていません。まずは公的な窓口で全体像をつかんでから、必要に応じて相談先を選んでいけば十分です。

成年後見はやわかり(制度の全体像/厚生労働省)成年後見制度利用促進(制度と相談体制/厚生労働省)法テラス(日本司法支援センター)公式サイト

どこに相談すればいいか迷うときは、地域の総合相談窓口である地域包括支援センターの相談窓口から入っていくと、話が進めやすくなります。

介護にかかるお金の全体像が気になる方は、在宅介護にかかる費用の目安もあわせてご覧ください。

※ ご案内についてこの記事は情報提供・相談先のご案内を目的としたもので、手続きや契約の代行を行うものではありません。また、特定の専門家・事務所へおつなぎしたり、斡旋したりするものでもありません。制度の詳しい内容やご本人に合う選び方は、裁判所・法テラス・市区町村・地域包括支援センターなどの公的窓口や、必要に応じて弁護士・司法書士などの専門職にご確認ください。