親の介護が続くなかで、「世帯分離をすると介護費用が下がるらしい」という話を耳にして、調べにこられたのだと思います。世帯分離とは、同じ家に住んだまま、住民票の上での「世帯」を分ける手続きのことです。引っ越しはしません。暮らしはそのままに、書類の上での家族の区切りだけを変える、という考え方です。
この記事では、なぜ世帯分離で介護費用が変わることがあるのか、その仕組みと、逆に負担が増えてしまう場合があることの両方を、できるだけ中立にお伝えします。先にひとつだけお伝えしておくと、世帯分離は「すれば必ず得になる」ものではありません。得か損かは、ご家庭の収入や加入している保険によって変わります。決める前に確かめておきたいことを、順に整理していきます。
そもそも世帯分離とは
住民票では、いっしょに暮らして生計をともにしている人のまとまりを「世帯」として登録しています。世帯分離は、この登録を分けて、たとえば親を別の世帯にする手続きです。同居はそのまま、生活も変わりません。あくまで住民票という書類の上での区切りが変わるだけ、と考えると分かりやすいかもしれません。
この手続きは、お住まいの市区町村の窓口で行う「世帯変更届」にあたります。窓口では利用目的をたずねられることもありますが、生活の実態にそった届出であれば、住民の手続きとして受け付けられているものです。
住民基本台帳制度(世帯変更届の届出先の案内/総務省)なぜ介護費用が変わることがあるのか
介護保険のサービスを使うと、費用の一部を自己負担します。この自己負担には、月ごと・区分ごとに上限を設ける仕組みがいくつかあり、その上限額が「世帯の課税状況(=世帯の中に住民税を課税されている人がいるかどうか)」によって段階的に決まっています。代表的なものが次の二つです。
- 高額介護サービス費……月々の自己負担の合計が、所得区分ごとの上限額を超えると、超えた分が払い戻される仕組み。
- 負担限度額認定(補足給付)……施設に入所したときの居住費・食費について、所得段階に応じて負担の上限を軽くする仕組み。
これらの区分は、世帯の住民税の課税状況をもとに決められます。そのため、収入の多い家族と同じ世帯にいると上位の区分になり、世帯を分けて親だけの世帯になると、住民税非課税の区分に当てはまって上限が軽くなる——ということが起こり得ます。「世帯分離で介護費用が下がる」と言われるのは、この仕組みが理由です。
介護保険の自己負担そのもの(1割・2割・3割)の考え方については、介護保険の自己負担割合もあわせてご覧ください。
施設入所時の居住費・食費を軽くする負担限度額認定の対象になるかどうかも、世帯の課税状況と関わります。
ここが大事——分けると、かえって負担が増える場合もあります
介護費用の一部が軽くなる可能性がある一方で、世帯を分けることで別の支払いが増えたり、受けられていたものが受けられなくなったりする場合があります。片方だけを見て決めると、家計全体ではかえって不利になることもあります。次のような点は、分ける前に必ず確かめておきたいところです。
- 国民健康保険料・介護保険料……世帯ごとに計算される部分があり、世帯を分けると合計の保険料が増える場合があります。
- 後期高齢者医療の保険料や自己負担割合……世帯の所得構成が変わることで、判定が変わる場合があります。
- 税の扶養……親を扶養にしていた場合、世帯分離で扶養の条件そのものが変わるわけではありませんが、あわせて扶養から外すと扶養控除が使えなくなることがあります。
- 各種の手当・減免・給付……自治体の福祉サービスや会社の家族手当など、「同一世帯」を条件にしているものは対象外になる場合があります。
決める前に、どこで確かめればいいか
世帯分離が自分の家にとって得なのか損なのかは、実際の数字で試算してみないと分かりません。幸い、関係する窓口はいずれもお住まいの市区町村にあります。同じ役所のなかで相談できることが多いので、順に確かめていくのがおすすめです。
- 介護保険料・高額介護サービス費・負担限度額認定のこと……市区町村の介護保険の担当窓口
- 国民健康保険料・後期高齢者医療のこと……国民健康保険・後期高齢者医療の担当窓口
- 手続きそのもの(世帯変更届)……住民票を扱う市民課などの窓口
「どこから聞けばいいか分からない」というときは、地域包括支援センターに一度相談してみるのもひとつの入口です。高齢者の暮らしとお金の相談を幅広く受けている窓口で、相談は無料です。世帯分離だけを勧める場所ではありませんが、いまの状況を整理して、どの窓口で何を確かめればよいかを一緒に考える手助けをしてくれます。
お住まいの地域の窓口は、地域包括支援センターを探すから、住所と電話番号で確認できます。
まとめ——「必ず得」でも「絶対だめ」でもありません
世帯分離は、介護保険の自己負担の上限が世帯の課税状況で決まる仕組みを使って、負担が軽くなる場合がある手続きです。一方で、保険料や手当への影響で、かえって負担が増えることもあります。得か損かはご家庭ごとに違い、この記事で「こうすべき」と断定できるものではありません。
大切なのは、介護費用という一面だけでなく、家計全体でどうなるかを、実際の数字で確かめてから決めることです。急いで結論を出す必要はありません。まずは関係する窓口に、いまの状況を伝えて相談することから始めていただければ十分です。
「親が倒れたその日から」何をそろえ、どこに備えるかを段取りにした介護のそなえチェックリストも、費用まわりを落ち着いて見直したいときの手がかりにご利用ください。