働き盛りのご家族に「若年性認知症かもしれない」「若年性認知症と言われた」——。そんな状況で、この記事にたどり着かれたのだと思います。子育てや住宅ローンの途中だったり、まだ仕事の第一線にいたりする世代だからこそ、高齢期の認知症とはまた違う戸惑いや不安があるはずです。まずお伝えしたいのは、いま何もかもを一度に決めなくて大丈夫だということです。
この記事では、若年性認知症という言葉が指すものを整理したうえで、この世代でとくに問題になりやすい「仕事の続け方・辞めどきの判断」「収入とお金の支え」「どこに相談すればよいか」を、落ち着いてご案内します。診断や治療の内容には踏み込みません。それらは医療機関の役目だからです。
若年性認知症とは——65歳未満で発症する認知症の総称
若年性認知症は、65歳未満で発症する認知症をまとめた呼び方です。特定のひとつの病気を指す名前ではなく、発症した年齢による区分けだと考えると分かりやすいかもしれません。厚生労働省も、若年性認知症を高齢期の認知症とは別立てで施策の対象とし、支援の手引きやハンドブックを整えています。
高齢期の認知症と大きく違うのは、多くの場合、ご本人が現役の働き手であり、家計や子育ての中心にいる時期に重なることです。だからこそ、仕事・収入・家族という生活の土台に、直接かかわってきます。この記事が「仕事とお金と相談先」に絞っているのは、そのためです。
仕事をどうするか——辞める前に、いったん立ち止まる
この世代でまず重くのしかかるのが、仕事をどうするかという問いです。ご本人も家族も、「迷惑をかけるくらいなら早く辞めたほうが」と考えてしまいがちです。けれど、退職はいちど決めると戻しにくい選択です。焦って辞める前に、まず立ち止まって選択肢を確かめることをおすすめします。
厚生労働省の若年性認知症施策では、就労の継続を支えることが柱のひとつに位置づけられ、医療・福祉・雇用の関係者が連携する仕組みや、働き方を調整するための相談の場が整えられてきています。「続ける」と「辞める」の二択で考える前に、勤務先の産業医や人事、そして後述する相談窓口と話しながら、休職・配置転換・勤務時間の調整といった間の道がないかを探ってみてください。
- 退職の前に、休職や勤務調整などの選択肢がないか勤務先に確認する
- 傷病手当金など、休んでいる間の収入を支える制度がないか調べる
- 退職の判断は、収入の見通しと使える制度を確かめてから決める
- 一人で会社と交渉せず、相談窓口や産業医と一緒に整理する
お金を支える制度——使えるものが、いくつかあります
収入が減ることへの不安は、この世代でとりわけ切実です。すぐに全部を理解する必要はありませんが、暮らしを支える公的な制度がいくつかある、ということだけでも知っておくと、気持ちの余裕につながります。ご本人の状況によって使えるかどうかは変わるため、あてはまるかどうかは相談窓口で一緒に確かめていくのがおすすめです。
傷病手当金(会社員などが休んでいる間の収入)
会社員などが加入する健康保険には、病気やけがで働けず給与が受けられないときに、一定期間、収入の一部を補う傷病手当金という仕組みがあります。休職して療養する場合の支えになることがあります。金額や受けられる期間には条件があり、あくまで目安として幅があるため、勤務先や加入している健康保険に確認してください。
傷病手当金のしくみは、傷病手当金の受け取り方でくわしくご案内しています。
障害年金(生活を長く支える年金)
一定の状態に該当する場合には、年齢が若くても障害年金の対象になることがあります。傷病手当金が「休職中の一時的な支え」だとすれば、障害年金は「生活を長く支える」性格のものです。受けられるかどうかや金額は個々の状況で異なり、判定には時間もかかるため、早めに窓口へ相談しておくと見通しが立てやすくなります。
自立支援医療・介護保険(通院や介護の負担を軽くする)
通院にかかる医療費の負担を軽くする自立支援医療という制度の対象になる場合があります。また、介護保険は原則65歳以上が対象ですが、40歳以上65歳未満の方でも、若年性認知症を含む定められた「特定疾病」が原因で介護が必要になった場合には、要介護認定を受けてサービスを利用できる仕組みになっています。現役世代であっても介護保険の対象になり得る、という点は覚えておくと役立ちます。
介護保険で受けられるサービスの全体像は、介護保険で使えるサービスにまとめています。
相談先——若年性認知症支援コーディネーターと、地域包括支援センター
若年性認知症は、仕事・お金・介護・家族と、関わる領域が広く、どこから手をつければよいか分かりにくいものです。だからこそ、家族だけで抱え込まず、全体を一緒に整理してくれる窓口とつながることが、いちばんの近道になります。
若年性認知症支援コーディネーター(この世代の専門の相談役)
各都道府県には、若年性認知症支援コーディネーターという専門の相談役が配置されています。就労や生活、利用できる制度、医療や福祉の関係機関との橋渡しまで、この世代ならではの困りごとをまとめて相談できる存在です。「仕事はどうしよう」「お金は」「どこに何を頼めば」といった、ばらばらに見える悩みを、一緒に順序立てて整理する手助けをしてくれます。厚生労働省も、都道府県ごとの支援体制の中心としてこのコーディネーターを位置づけています。
これからの若年性認知症施策の概要(若年性認知症支援コーディネーター・就労支援/厚生労働省)若年性認知症の施策・ガイドライン・ハンドブック(厚生労働省)地域包括支援センター(身近な総合相談窓口)
地域包括支援センター(=市区町村ごとにある高齢者と家族のための総合相談窓口)も、身近な相談先のひとつです。介護保険の要介護認定の入口になるほか、若年性認知症支援コーディネーターや医療機関へのつなぎ役にもなってくれます。相談は無料で、「まだはっきり決まっていないのですが」という段階のまま、電話一本でかまいません。
お住まいの地域の窓口は、地域包括支援センターを探すから、住所と電話番号で確認できます。
認知症施策(相談先・認知症ケアパスの案内/厚生労働省)家族への影響——配偶者や子どもの暮らしも、視野に入れて
若年性認知症は、支える側の家族もまた現役世代であることが少なくありません。配偶者は仕事と介護の両立に悩み、子どもはまだ学びや自立の途中にいることもあります。家計の担い手の変化と介護の負担が同時にやってくるため、家族全体で暮らしをどう組み直すかを、少し先を見ながら考えていくことになります。
とはいえ、それを今日いっぺんに背負い込む必要はありません。まずは相談窓口とつながり、使える制度と仕事の見通しを一つずつ確かめること。そのうえで、家族の役割分担や暮らしの段取りを、少しずつ整えていければ十分です。
「親が倒れたその日から」何をそろえればいいかを段取りにした介護のそなえチェックリストも、落ち着いて見直したいときの手がかりにご利用ください。
支えるあなた自身の気持ちも、置き去りにしないで
若年性認知症と向き合う日々は、本人だけでなく、支える家族にも大きな重さがかかります。仕事、お金、子ども、そして将来への不安——それらを同時に抱えれば、疲れがたまるのは当然のことです。本人を気づかうのと同じくらい、支えているあなた自身の気持ちも、どうか置き去りにしないでください。
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