「認知症です」と告げられたあと、その言葉だけが頭に残って、これから何をどうすればいいのか分からなくなる——そんな状態でこのページを開かれたのかもしれません。まずお伝えしたいのは、今日いっぺんに何かを決めなくて大丈夫だということです。診断がついたからといって、明日から暮らしが一変するわけではありません。少し呼吸を整えてから、一つずつでかまいません。
この記事では、診断のあとに家族が向き合っていく入口を、四つに分けて落ち着いて整理します。ひとつは、ひとりで抱えないための相談先。ひとつは、これからの暮らしを支える介護保険という仕組みの入口。ひとつは、お金の管理をどう備えておくか。そしてもうひとつは、これらすべての土台になる、本人の意思を大切にするという姿勢です。認知症の治療や進み方については、主治医が一番の相談相手です。ここでは触れず、暮らしの段取りに絞ってお話しします。
まず、ひとりで抱え込まないこと
診断を受けたあと、多くのご家族が「自分がしっかりしなければ」と気を張ります。その気持ちはとても自然なものです。ただ、認知症とのつき合いは長い道のりになることが多く、家族だけで長く抱え込むと、どこかで支える側が先に消耗してしまいます。早い段階で外の窓口とつながっておくことが、結果として本人の暮らしも家族の暮らしも守ってくれます。
その最初の相談先が、地域包括支援センターです。市区町村ごとに置かれた高齢者のための総合相談窓口で、相談は無料です。「診断は受けたけれど、これから何をすればいいのか分からない」という、まさに今の状態のまま、電話一本でかまいません。保健師や社会福祉士などが、これからの見通しや使える仕組みを一緒に整理してくれます。厚生労働省も、市町村ごとの相談やサービスの入手先として、地域包括支援センターを案内しています。
お住まいの地域の窓口は、地域包括支援センターを探すから、住所と電話番号で確認できます。まずここに一本、で十分な入口です。
認知症施策(本人・家族向けの相談先・認知症ケアパスの案内/厚生労働省)暮らしを支える入口——介護保険の「要介護認定」
認知症とともに暮らしていくなかで、介護サービスの助けを借りたくなる場面が少しずつ出てきます。デイサービスやヘルパー、福祉用具など、介護保険のサービスを利用するための入口になるのが「要介護認定」です。これは、どのくらいの支援が必要かを市区町村が調べて判定する仕組みで、申請から結果が出るまでには一定の期間がかかるのが一般的です(目安として一か月程度とされることが多いですが、地域や状況によって幅があります)。
ここで身構える必要はありません。「認定を受けなければ」と焦るより、まずは地域包括支援センターに「サービスを考え始めたい」と伝えるところからで大丈夫です。申請の手続きや、今の状態で申請するのがよいタイミングかどうかも、窓口が一緒に見てくれます。認知症の場合、身体は元気に見えても支援が必要な場面があり、その様子を認定調査で正しく伝えることが大切になります。
申請から認定、そしてサービス利用までの流れは、要介護認定の流れでひととおりご案内しています。あわてず、全体像をつかむところから。
要介護認定について(制度概要・認定の仕組み/厚生労働省)お金の管理の備え——今すぐでなくても、知っておく
診断後、家族が静かに気にかけ始めるのが、お金や契約の管理です。判断する力が少しずつ変わっていくと、預貯金の出し入れや各種の手続きを、本人だけで進めるのが難しくなる場面が出てくることがあります。ただ、これは診断の翌日から慌てて何かを移す、という話ではありません。「そういう備えの選択肢がある」と頭の片隅に置いておくだけでも、いざというときの安心につながります。
本人の財産や契約を守るための仕組みとして、成年後見制度や家族信託といった選択肢があります。それぞれ性格や向き不向きがあり、どれが合うかはご家庭の状況によります。大切なのは、まだ本人が自分の意思をしっかり伝えられるうちに、本人自身の希望を聞きながら考え始められることです。制度の中身は少し複雑なので、まずは全体像を知るところから、で十分です。
成年後見制度と家族信託のちがい、それぞれの向き不向きは、成年後見と家族信託でやさしく整理しています。急いで決めず、選択肢を知る手がかりにご利用ください。
すべての土台は、本人の意思を大切にすること
診断がつくと、家族はつい「本人のために」と、先回りして物事を決めてしまいがちです。その気づかいは尊いものですが、認知症になっても、本人には好きなこと・大切にしたいこと・こうありたいという願いが変わらずあります。何をどう暮らしていきたいか——本人が自分の言葉で伝えられるうちに、その声に耳を傾けておくことが、この先のすべての判断の支えになります。
「できないこと」を数えるのではなく、まだできること・続けたいことに目を向ける。手続きや制度の話も、本人を置き去りにせず、できる範囲で一緒に考える。そうした姿勢が、本人の尊厳を守り、家族との関係を穏やかに保ってくれます。急いで正解を出す必要はありません。本人と一緒に、少しずつ決めていけば大丈夫です。
この先の段取りは、少しずつで大丈夫
相談先とつながる、介護保険の入口を知る、お金の備えの選択肢を知る、本人の意思を大切にする——ここまでお伝えしてきたことを、今日ぜんぶ進める必要はありません。まずは地域包括支援センターに一本、で十分な一歩です。次に何をすればよいかは、そこから一緒に決めていけます。
「親が倒れたその日から」何をそろえればいいかを段取りにした介護のそなえチェックリストも、落ち着いて全体を見渡したいときの手がかりにご利用ください。
また、診断の前、「認知症かもしれない」と感じ始めた段階の気づきや接し方については、別の記事でお伝えしています。ふり返って読みたいときの手がかりにしてください。
「認知症かもしれない」と思ったらでは、初期の気づきと最初の相談先を整理しています。